ある朝〜コユコック川

アラスカ北極圏。
コユコック川をカヤックで旅していた。
川を下り、キャンプをして、そしてまた荷物をカヤックに積み込み、また川を下る。
そんな毎日を繰り返し、小さなインディアンの村を目指していた。

その日の朝、いつものようにテントからはい出した。
すぐに周りに群がってくる蚊を追い払いながらふと下を見てぎょっとした。

泥の上に大きなクマの足跡。

そこはテントから5mも離れていなかった。
昨日この河原に上陸した時にはなかったはずだ。
カヤックを岸に着け、そこでキャンプするかどうか決める時、
まずはクマの足跡やフンがないかを確認する。
確かに昨日はなにもなかった。

だとすれば僕が寝ている間にクマがここを通って行ったということになる。
クマはほとんど足音をたてずに歩くという。
しかもこちらが寝てしまっていればこうして気づくこともないのだ。

急に怖くなった。
と同時に少し可笑しくなった

そのクマは僕のテントが目に入っていたはずだ。
なんだろう、と思って近づいてきたのだろうか?
テントの中で僕が寝返ったのか、なにか音がして、驚いてそのまま通過してしまったのかもしれない。

クマは基本的に好んで人を襲うことはないと思っている
今まで出会ったクマのほとんどが、こちらの姿を見ると逃げて行ったからだ。
ただ、時々そうではない事故を耳にする。
クマにもいろいろな個性があり、状況によってそれも変わるということなのだろう。

僕のテントの前を通っていった奴がどんなクマだったのかはわからないけれど、
そいつは立ち止まり、いつものように鼻を高く上げ、においを嗅いだのだろう。
・・・・いつもと違うにおい。
そいつは人間のことを知っていたのだろうか。
それともはじめての人間だったのだろうか。
いずれにしてもそいつは確かに僕の存在を意識したはずだ
その時、クマは何を思ったのだろう。

原野での野生動物との遭遇はいつも緊張感に満ちている。
しかし、どこかユーモラスでもある。

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