オオカミとの出会い〜シーンジェック川


6月の北極圏は白夜の季節。
夜になっても暗くなることはない。
そうはいっても真昼のように太陽が照りつけることはなく、
陽が低くなり気温も下がると、夜の気配を感じることができる。
明るくて眠れないのでは、と聞かれることがあるが、
そんな夜の気配が漂ってくると自然と眠くなってくるから不思議だ。
なにより、夜が明るいということはありがたいことでもある。
クマなどの野生動物への恐怖がほんの少し和らぐのだ。
もし、真っ暗の中で、近くの薮からガサガサ音が聞こえてきたらどんなにか怖いことだろう。

北極圏での初めてのキャンプ、長旅で疲れてはいたが、テントに入ってもすぐに寝付くことができなかった。
テントからはい出して河原をぶらぶらと歩いていると、どこからか動物の鳴き声が聞こえてきた。
長く尾を引くような鳴き声・・・・。
オオカミの遠吠えだった。
一頭の遠吠えに答えるように、違う方向から他の遠吠えが聞こえてきた。
どこからかオオカミが現れるのでは、と、期待と不安でドキドキしながらその場で待っていた。
カメラを持っていないことに気づいたが、すぐにどうでもよくなった。
写真を撮るより、とにかく野生のオオカミの姿を見てみたかった。

オオカミは僕が最も憧れていた野生動物だった。
日本ではもう伝説の動物となってしまったプレデター(捕食者)。
いつか見た映像か本の記述か定かではないが、オオカミの狩りの様子が脳裏に焼き付いている。

極北の雪原。
一頭のオオカミが、白い丘の上からそれを見下ろしている。
その視線の先にはトナカイの群れがあった。
突然、彼はその群れをめがけて矢のように丘を駆け下りて行った。
トナカイは驚いて一斉に動き始めた。
オオカミは群れをまっぷたつに分断するようにその中を走り抜けていく。

すると、二つに分かれた群れの片方めがけて別のオオカミが突進していった。
さらにトナカイの群れが別れ小さくなる。
そしてまた別のオオカミが小さくなった群れを追う。
ついに一頭のオオカミがトナカイに飛びかかった。
他のオオカミもそれに続く。
数頭のオオカミに引きずられ、トナカイはついに雪面に崩れ落ちた・・・・。

オオカミはトナカイの群れを分断しながら弱ったトナカイを見つけ、追いつめて行くという。
彼らの頭の良さにも感心したが、なによりもその狩りのシーンが美しかった。
いつか極北の原野に立ち、その自然の象徴のようなオオカミを見てみたいと思うようになった。
    * * * * * * *
河原で待ち続けたが、ついにオオカミは現れなかった。
彼らは警戒心が強く、簡単に人間の前に姿は現さないという。
この年(‘97)、僕は4ヶ月間、北から南までアラスカを旅したがオオカミに出会うことはなかった。
実際に僕がオオカミに出会ったのはこの2年後のことだった。

*写真は2009年、デナリ国立公園で撮影したもの。
 ここ数年、デナリ国立公園ではオオカミが人を恐れなくなり、平気で人に近づくようになってきているという。

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