原野の旅へ〜シーンジェック川
97年6月、アラスカ北極圏。
インディアンの小さな村をセスナで飛び立つ。
白い機体はユーコン川の上を旋回し、さらに北へ向かう。
セスナには3週間分のキャンプ道具と僕たち二人、そしてパイロット。
それだけでいっぱいになってしまうほど小さな飛行機だ。
エンジンの音(プロペラの音?)が大きいため、すぐ隣にいるパイロットと会話をするにもヘッドフォンを使わなければならない。
僕のすぐ隣に座っているパイロットは、操縦桿を動かしたり、目の前に並んでいる計器類をチェックしたりしている。
ジェット機しか乗ったことのない僕は、この飛行機が飛んでいることが不思議に思えてくる。
しかし、道のないアラスカの原野に入るにはこの乗り物しかないのだ。
セスナは、わずか100mほどの平地があれば、河原でもツンドラの原野でも離着陸することができる。
「シーンジェック川だ」
ヘッドフォンからパイロットの声が聞こえてきた。
前方を見ると、広大な原野の中に銀の糸のような輝きが見えている。
僕たちはこれからその川を、
カヤックで、3週間という長い時間をかけて旅をするのだ。
川の流れを目で追ってみる。
しかし、それは、遠くにうっすらと見える山脈の方向に消えてしまっているだけで、
いったいどこから流れてきているのかもわからない。
なんという広さなのだろう。
眼下には人の気配などみじんもない、黒々としたトウヒの森やツンドラの原野が
どこまでもどこまでも続いている。
「無事に帰ってこられるのだろうか・・・」
ふとそんな思いが脳裏をよぎる。
無理もない。
これが僕たちにとって、はじめてのアラスカ原野行だった。
思えば無茶な計画を立てたものだ。
例えば、デナリ国立公園のように、少しでも人の管理が入った場所でアラスカの自然を経験して、
それからこのような原野への旅に行ったほうがよかったのかもしれない。
しかし、そのときはそんなことは思いもよらなかった。
ただただ、北極圏を流れる野生の川を、長い時間をかけて旅をしてみたかった。
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