はじめてのアラスカ〜フェアバンクス


97年3月、アラスカ、フェアバンクス空港。
外の温度計は-5℃をさしている。
今まで暖房の効いた屋内にいたせいか頬にあたる冷たい風が心地よい。

空港の周辺には森があり、針のように細く尖ったトウヒの樹々が、青空を突くように立っている。
はじめて見る極北の風景。
でも、はじめてとは思えない、なんともいえない懐かしさがあった。

フェアバンクスはアラスカ州で2番目の都市だ。
とはいえ、人口は郊外まで含めて10万人ほど。
あるアメリカ人が
「フェアバンクスはCITY(シティ=街)じゃない、
               TOWN(タウン=町)だよ。」
と言っていた。
郊外には巨大なスーパーがあり、日本人の僕から見れば十分に「街」だが、
どこか田舎町らしい鷹揚とした雰囲気が漂っていた。

「ナカジマ?」

声をかけられ振り向くとひげ面の大男が立っていた。
泊まることになっていたドミトリーのオーナーだった。

彼の車にバックパックを放り込み乗り込む。
空港から10分も走ると車は森の中へ続くダート道へと入って行った。
道の両脇に広がる森は雪景色だ。

ドミトリーは森の中にあった。
冬枯れのシラカバやアスペンの樹皮が美しい。
薄い赤紫がかった乳白色をしている。
そんな色の樹皮はいままで見たことがなかった。
冬の、極北の光のせいでこんなにも美しく見えるのだろうか?
そして、黒々として針のように鋭いトウヒが、アクセントとなって風景を引き締めていた。

雪を踏みしめ、森を歩く。
乾燥し気温が低いためか、雪はとても軽い。

極北に来た実感がだんだんと湧いて来る。

小高い丘まで歩くと、原野の広がりの向こうに白く輝くアラスカ山脈が見えた。

デイパックを降ろし、スケッチブックを取り出す。
気温は相変わらず氷点下。
でも、乾燥しているためかそれほど寒く感じない。

スケッチをすることは記憶すること。
絵を描いていると風景の一部になっていくような感覚がある。
その感覚が体の記憶として沈殿していく。
そしてそのスケッチを見るたびにそのときの空気感まで思い出すことができる。

しばらく描き進めていくと色がのらなくなってきた。
紙の上で水彩絵の具が凍ってきたのだ。
それ以上描くのをあきらめ、スケッチブックを閉じた。

このスケッチ、今では手元にないけれど、とても好きな1枚だった。









コメント

人気の投稿